086. 蝋燭


 フェリックは、ゆっくりと蝋燭の芯に向けて、手をかざす。
 口の中で呪文を唱えながら。
 フェリアは、これを二〇日以上前に成功させていた。
 一方フェリックは、当初自分に火が点くのではないかと思うと怖くて成功できなかった。
 だが、それを見ていたフェリアが、
「人間用の大きさだからじゃないの? あたしだって、自分より大きなローソクには火を付けらんないよ」
 と事も無げに言った。
 確かに人間用の蝋燭の炎は、小人族に分類される彼にとっては脅威だ。
「このサイズのローソクなら、フェイの家にも運べるね」
 そして、笑いながら、かなりの数の蝋燭を作ってくれたのだ。
 最近では、フェリアの行動が見えてくるようになった。
 彼が怖じ気づいて、それを誤魔化している場合には、馬鹿にする。
 彼が本気で困っているときは助けてくれる。
 言動が腹が立つので、なかなかわからなかったが。
 そんな彼女の期待に応えたかった。
 呪文を唱え終わるのと同時に、蝋燭の芯に火が点いた。
「やったっ!」
 フェリックは思わず声を上げ、拳を握りしめる。
 まだまだ彼が空を飛べる日がいつ来るのかはわからない。
 だが、これが第一段階。
 ただの蝋燭の火ではなく、彼にとっては希望の灯火に思えたのだった。

 2015年11月23日

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