087. ハネ
「Il porte un corps」
フェリックの呪文とともに、足が地面から離れる。
魔法の力を借りて、ではあるが、生まれて初めて、自分の意志で空を飛ぶ。
「やったーっ! フェイ、すごいっ!」
フェリアの手放しの賛辞。
フェリックはそれが誇らしかった。
「なかなかいいじゃないかえ」
二人の師匠であるキャヴェリン=ハリエットも、嬉しそうに頷く。
「えへへ」
彼はふと思い立って、羽を動かしてみる。
すると、それがさらなる浮力となって、更に高さが上がる。
そして、方向も変えられた。
薄羽族として生を受けながら、一度もその羽で空を飛んだことがなかった彼。
けれど、今はその羽が、彼が飛ぶことの役に立つ。
今まで、飛べもしないのになぜ羽があるのかと憎らしく思ったこともあった。
これがなければ、もしかしたら、別の種族なのに薄羽族に紛れ込んでしまったのではないか、と自分を誤魔化すこともできたのに、と恨めしく思ったこともあった。
それでも、仲間たちが空を飛び交うとき、陽の光を受けて煌めく羽を美しいと思う自分がいた。
いつか飛べる、という希望でもあった。
色々な想いが胸に迫り、フェリックは思わず涙ぐんだ。
「諦めなくて良かったね」
「にかっ」とばかりに笑うフェリアに、フェリックは黙って頷く。
彼女がいなければ、きっと彼はとっくに諦めていただろう。
もしかしたら、とっくにこの世にいなかったかもしれない。
けれど、今日からは違う。
きっと同胞たちは、彼のあり方を認めないだろう。
だが、行動範囲が広がること、フェリアの役に立てることが増えるんであろうこと。
それを思うと、誇らしくて、フェリックは初めて羽があることを嬉しく思ったのだった。
2015年11月25日
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