070. 迷路
フェリアは、ぼんやりと空を眺める。
フェリア=トレスタ=サンモーガンでいることは、とても息苦しかった。
母のリディスは由緒正しきサンモーガン家の令嬢でありながら、誰が父かわからない娘を産んだ。
好奇の目。
悪意の噂。
無遠慮な詮索。
それらに晒され、母はどんどん心と体を弱らせていった。
フェリアは、自分の行動が母を口撃する材料になることに気付いたときから、ただただ人形のように生きていた。
けれど、生来の性格、生き生きとした子どもらしい好奇心は抑えておけず、外に出かけるようになった。
他の人間と会うことがないよう、森へ出かけることが日課だった。
今思えば、よく肉食の野生動物に襲われなかったものだ、と思う。
そこで、出会ったのが、サリウス=ヴァン=デジレだった。
この国の人間ではない大人。
彼女を、サンモーガン家の人間とは知らない大人。
そして、剣を、彼女に生きるために道を切り開く力を与えてくれた大人。
大切な心の友、妖精族のフェリックと出会ったのも、サリウスと共にいるときだった。
森にいるときも気が楽だったが、サリウスと出会って、「リア」として接していると、本当の意味で息をしている、生きていると感じることができた。
だからこそ、自分がフェリアであると知られたくなかったのだ。
サリウスがそれを気にするとは思っていない。
ルビーも最初は「やっぱり」と思うだろうが、彼女を裏切り者とは思わないだろう。
そう思っていても、身体が動かないのだ。
会いたい。
そう思うのに、足が動かない。
その理由がわからない。
以前考えていたことと同じことを考えていることはわかる。
そこから進みたいと思っているのに、なぜか考えは堂々巡りだ。
フェリアは今、迷路の中に迷い込んでいる気分だった。
2014.08.15
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