069. 変わり種



「つまみ食い禁止っ」
「……あー、また失敗しちゃった」
 小さな掌をある程度手加減して鋭く叩くと、痛がるでも悪びれるでもなく、リアは悔しそうに地団駄を踏む。
「ランスさんからつまみ食いが出来たら、かなりジマンできると思うんだけどなぁ」
「ちょうだいと言えばあげるのに」
 娼館の台所を借りてドーナツを揚げていたランスは、今の敗因を分析しているらしい少女の様子に苦笑する。
 この国では王侯貴族の血を引く証とされる青銀の髪をした美少女だが、その髪の毛や造作よりも生き生きとした表情に惹き付けられる。
 下町でも有名な彼女であるが、放蕩貴族の落胤などではなく、歴としたこの国でも屈指の大貴族サンモーガン卿の孫である。
 とはいえ、そういうランスも、王の信頼篤い騎士でありながら、こうして下町の娼館を足繁く訪れ、こうして菓子など作っているのだから、人のことは言えないが。
 おそらく、リアも彼も他人から見れば「変わり種」と表現されるであろうことは想像に難くない。
 だが、この時間が幸せだと言えるのだから、それでいいじゃないか、と最近のランスは開き直っていたのだった。

2014.08.15

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