067. かなしみ



「ねぇ、リア。サリウスのとこ行かないの? ルビーも心配してるよ、きっと。ランスさんだって」
「……おっちゃん……ずっと黙ってたんだよね……」
 フェリアは膝を抱えて座り込む。
 母はもちろん、祖父も大好きな気持ちに変わりはない。
 けれども、父親のわからない子どもを産んだということで、母は常に悪意に満ちた好奇心に晒されていた。
 フェリアの行動は全て母を口撃する材料になりかねず、彼女はただ黙って屋敷の中にいなければならなかった。
 人と触れ合うことも出来ず、必然的に森で息抜きをしていたのだが、そこで逢ったのがおっちゃんことサリウス=ヴァン=デジレだった。
 彼はなんだかんだ言いながらも、剣を教えてくれた。
 彼のお陰で強くなれ、リアとしてどこにでも行けるようになったのだ。
 何も気にせず、ただの「リア」として付き合っていけるのが嬉しかった。
 先日の喧嘩のときまで、彼女はサリウスが全てを知っているなど思いも寄らなかった。
 それだけ態度に変わりがなかったということだが……。
「それでも……」
 やはり、「リア」のままでいたかったのだ。
 何ものにも囚われず、したいと思うこと、言いたいと思うことを言える。
 自由な空気を吸える存在。
 何にも遠慮せずに甘えられる場所は、リアとしてでしか得られない。
 フェリアは、膝頭に顔を埋めた。

2011.01.30

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