064. 毒

「びっくりぃ。こぉんな可愛い花に毒があるの?」
 フェリアは艶やかな青銀の髪に包まれた頭を傾け、愛らしいと言える顔に生真面目な表情を浮かべる。
「そうだよ。葉っぱがリーキに似てるから気をつけなくちゃ、なんだよ。間違って食べる人間も多いって言ってたもん」
 そんなフェリアの肩の上で、薄羽族のフェリックが大仰に頷く。
「大変なんだねぇ」
 真剣ながらも切迫感を感じさせない二人の会話に、
「だから、解毒の薬草を……」
 サリウスは必死に声を上げる。
「んー。でも、ぼく、これが毒っていうのは教わってるけど、解毒作用のある薬草なんて知らないよぉ」
 フェリックの言葉に、サリウスは泣きたい気分になる。
 彼らをあてにしたのが愚かだったのだ。
「わかった。医者を」
「えー? 呼びに行くのはいいけど、おっちゃん、お金あるの?」
「うぐっ」
 フェリアの呆れたような言葉に、サリウスは痛いところを突かれ呻いた。
 その様子を見て、
「ごめーん。道ばたの草食べるくらいなんだから、お金なんてあるはずないよね」
 明るく笑うフェリアに、サリウスは心の底から殺意を覚えるが、全身の痺れや悪寒、目眩のせいで実行はままならない。
「それにしても、いくらお腹空いてるからって、毒草を食べちゃうなんてねぇ」
「ほんと、サリウスにも困ったもんだよねぇ」
 目の前で地べたに倒れ、必死に吐き続けている人間がいるとも思えぬ和やかさ。
 サリウスには草の毒よりも、この二人の毒気に当てられたように思えた。

2006.05.28

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