063. 寄生
「ねぇ、リア。ぼくは、リアに寄生してるのかな?」
「何言ってんの? バグスの言ったこと気にしてるの?」
フェリアの問いかけに、フェリックは俯いた。
バグスは今サリウスが用心棒として雇われている娼館に通ってくる酔っぱらいだ。
サリウスがいるせいで、娼館で好き勝手出来ないせいか、フェリアやフェリックを目の敵にしている。
だが、フェリアに手を出せばやり返される上にサリウスからも仕返しをされるので、言葉で言ってくるようになった。
さきほども、フェリックに向かって、「おい、寄生虫!」などと呼びかけたのだ。
「 だって、ぼくは何も出来ないし」
背中に羽があることから「虫」呼ばわりされているとは思えども、「寄生」していることは否めないと思うのだ。
「ばかだなぁ、フェイは」
「ばか言うなっ」
思わず言い返すが、
「だって、ばかじゃない。あんな奴の言うこと真に受けたりしてさ」
いつも通りフェリアは動じない。
「馬鹿の言うことに反応するのは馬鹿なんだよ」
「けどさ」
なおも言いつのるフェリックに、フェリアは深々と溜息を吐き、
「あのねぇ、フェイ。それ言ったら、あたしだって寄生してるってことなんだよ? だって、あたしはじいさまの家に住んでるし、自分で稼いで暮らしてるわけじゃあないんだから」
「それは」
「第一、おっちゃんなんかどーするの?」
「へ?」
「俺がなんだ?」
大人のサリウスが、ここでどうして出てくるのかがわからず、目を見開くフェリックと、名が出てきたことで顔をだしたサリウスに対し、
「おっちゃんなんか、あたしにご飯やおやつたかってたんだよ? あたしやフェイは子どもだからいーけど、大人のおっちゃんなんか、それこそ寄生もいいとこなんだよ」
無意味に勝ち誇ったように言う。
「しかも、今だってたいした仕事もないのにぶらぶらしてさ。用心棒以外の仕事しようともせずに、おねーちゃんたちのところで生活してるんだもん。おっちゃんこそ「寄生」してるんであって、あたしたちとは違うんだよ」
「ちょっと待てっ! 剣の稽古代だろーがっ、飯はっ」
サリウスが抗議するが、
「そ、そうか。言われてみればそうだよねっ!」
雲が流れたかのように晴れやかな気持ちのフェリックの耳には入らない。
「そっかぁ。ぼくやリアは子どもだもんねっ。本当だ。サリウスこそ寄生虫なんだよねっ。ぼくやリアは当たり前のことだよねっ」
「そうそう」
「 お前ら……好き勝手言いやがって」
「間違ったこと言ってないもん」
「そうだよ。リアは正しい。違うなら、反論してみなよ」
「うるさいっ! 大人を馬鹿にする奴らにはおしおきだぁっ!」
「ぼ、暴力反対っ」
焦るフェリックだが、フェリアはそんな彼を掴んで頭に載せ、
「寄生虫が暴れるとお腹が痛くなるんだよぉっ」
嬉しそうに笑う。
こんな時間が続くのなら、「寄生」も悪くないと、フェリックは思った。
「……この……わぁーったっ! 腹がよじれて痛くなるほど笑わせてやるっ!」
サリウスの怒声に、フェリアは楽しそうに悲鳴を上げ逃げ出すが、結局彼の宣言が実行されるまでに、さほどの時間はかからなかったのであった。
2006.05.28
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