059. 凡庸

「何だか今日は随分楽しそうだね」
 ランスがいつも通り娼館に足を運ぶと、フェリアが頭に妖精のフェリックを乗せて、何やら楽しそうに浮かれ歩いていた。
 この二人がサリウス=ヴァン=デジレのいる娼館にいるのはいつものことだし、だからこそランスもやってきているのだが、こんな風に無意味に嬉しそうな様子を見せるのは珍しい。
「もうすぐお祭りでしょ? ランスさん、嬉しくないの?」
 フェリアは不思議そうに首を傾げる。
  あぁ……そうだね。私はどちらかというと、仕事が増えるから」
 祭りのときは旅行客も多く、また犯罪も増える。
 とはいえ、彼にとっては子どものころから、さほど心浮き立つものでもなかったのだが。
「ふーん。大変だね。でも、ぼくたちには関係ないもんっ。ねー」
「ねー」
 無意味に頷きあう二人の様子に、ランスは微笑んだ。
 人目を惹き付ける美しい顔立ち、非凡な才能、不幸といってもよい生い立ちのフェリアだからついつい特別な存在と思いがちだが、こうして無邪気に祭りを喜ぶ凡庸さが、何とも言えずかわいらしく思えたからだ。
「時間があったら、ランスさんも一緒に見物しようね」
「あぁ、君が騒ぎを起こさなければ、ね」
 そんな思いをおくびにも出さず、ランスは笑って請け合った。
inserted by FC2 system