058. シーズン

「あれ? フェイ。一人だなんて、珍しいね」
「まあね」
 一人屋敷の中庭にいたフェリックは、声をかけてきたヴァイスに肩をすくめてみせる。
 彼は悪い人間ではないし、フェリアの味方でもあるが、優しさや配慮に欠ける嫌いがある。
 フェリアの事情も全てわかっているのに、表面に表れることしか見ないのだ。
 胸の内を慮ることがない。
 そういうことが、ようやくフェリックにもわかってきていた。
 だから、
「何か用事?」
 フェリアのことには触れずに訊ねる。
「いや、一人なのが珍しかったから声をかけただけだよ」
 毎年のことなのに、ヴァイスは何も気づかずに手を振って去って行ってしまう。
「同じ人間同士なのに不思議だよね」
 独りごちると、フェリックは空を見上げる。
 少しずつ天が高くなり、青くなっていくこの季節、フェリアは時々何も言わずにどこかへ消える。
 誰にも何も言わず、どこにいるのかも言わない。
 戻ってきたときにはいつも通りの彼女だ。
 それがフェリックには心配だった。
 母親のリディスが死んだときも、フェリアは一人で消えた。
 リディスが死んだこの季節になると一人で消えるのは、その痛手が時間が経ってもほとんど和らいでいないからだろう。
 いつも傍にいて、どこに行くのにも一緒なのに、フェリアが支えを必要としているときには傍にいられない。
 いさせてもらえない。
 彼女が消えるたびに、フェリックはそれを思い知らされるようで切なくなる。
 いつかこの季節を一緒に過ごすことができたなら……。
 そう思いながら、フェリックは空を見上げ続けていた。

2005.11.02

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