056. 減ったなぁ

   レマック先生の宿題は難しかった。
 こう記して、ヴァイスはペンを置いた。
 五年日記も四年目に入り、ページも半分以上が埋まっている。
 最初は何を書いていいかもわからず、うまくまとめられず、やめようかと思ったことも再三再四だったが、今ではしっかり日課となっている。
「それにしても」
 上の段2,3年前の日記を読み返し、ヴァイスは苦笑する。
 中身の殆どがフェリアお嬢様に受けた仕打ちに関する詳細と、それに対する反撃の決意なのだから。
「……減ったなあ」
 今年の分を流し読みしながら、一人笑みを浮かべる。
 彼女に関する述懐は目に見えて減っている。
「最近されたことと言えば、お客様用のお菓子を持ち出されたことと、勉強をサボって遊びに出かけること。家庭教師の先生にイタズラしたり、図書室の整理投げ出す……くらい……」
 一つ一つあげていく内に笑みがひきつっていく。
 フェリアお嬢様が行う悪行の数々は減ってなどいないのだ。
 日記に彼女のことを書かなくなったのは、単に彼が諦めの境地に辿り着いただけなのだ。
 しかも、無意識にそのことを受け入れてしまっている。
「だめじゃないかぁっっ」
 そのことに気づき、ヴァイスは頭を抱えて突っ伏した。

2005.10.18

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