055. 戦い
「やぁ、ローゼンフェルト殿」
「お久しぶりです、ベンソン大佐」
ランス=ローゼンフェルトは城内でモリッツ=ベンソンに声をかけられ脚を止めた。
ベンソンは今年四五歳。
現在他国と戦をしているわけでもなく、平和なせいか軍人というには恰幅が良すぎる体型で、不釣り合いに大きな口ひげを見せつけるようにひねる。
若くして騎士として名をあげ、国王の信任篤い彼を嫌っている。
もっとも、士官級の人間でランスを好いている人間の方が少ないかもしれないが。
「あぁ、久しぶりだな。そなたは陛下のお側近くで、お望みを叶えて差し上げるのに忙しいようだからな」
雑用係との嘲りを込めた言葉に、
「ええ、陛下直々のご命令ですから。ですが、陛下の労いを励みに、今後もお側にお仕えする所存です」
「っ」
ベンソンの顔色も変わったが、ランスも硬直する。
今までの彼であれば、曖昧に微笑んで受け流していた。
不正を働いて今の地位にあるわけでもなく、実力を磨いた結果とは自負していても、妬まれるのも自覚していたからだ。
余計な戦いは避けると思い、それ故に穏和であるとか脆弱であると言われていたのだ。
だが半ば無意識に、厭味が口をついて出た。
ベンソンが国王と直接顔を合わせることなどほとんどなく、ましてや声をかけられることなど皆無に近い。
「な、なるほどなっ。いい心がけだっ。失礼するっ」
足音も荒く部下を引き連れ、去ってゆくベンソン。
ベンソンは間違いなく、彼に対する敵対心を燃え上がらせただろう。
「 参った」
ランスは前髪をかきあげ、そのまま額に手をあてる。
思い切り影響されているのだ。
あたしは悪いことしてないもんっ。そんなあたしにイチャモンつけてくる方が悪いっ。カエリウチにしてやったよ。
艶やかな青銀の髪を風になびかせ、無駄に偉そうに空に向かって拳を振り上げるフェリアの声が聞こえる気がする。
ベンソンの口からこの話はすぐに知れ渡り、反ランス派の者たちは彼に対して更に厭味や当てこすりを言ってくることだろう。
水面下での戦いは必至だ。
だが、
「返り討ちか、そうだな。うん」
ランスは笑みを洩らすのだった。
2005.10.17
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