.046. 視線

 母の葬儀が終わり、弔問客の姿が消えると、フェリアは一目散に屋敷を飛び出した。
「リアっ?」
 後ろでフェリックの驚いた声が聞こえたが、今日ばかりは立ち止まって彼を待つつもりはなかった。
 傍にいて欲しくなかったからだ。
 フェリックは大切な友人だと思っているが、あの「どうしたらいいんだろう」とか「可哀想なリア」と言った気持ちが溢れんばかりの目で見られることが耐えられなかった。
 母はいつも哀しそうにフェリアを見た。
 祖父は哀しそうでもあり、困ったようでもあり、彼女には理解できない  憐憫の情  をもって見ていた。
 周囲の大人たちは残酷な好奇心、彼女の父親は誰なのか、彼女や母のあら探しをする目で見ていた。
 そういった諸々の視線から逃れたかった。
 可哀想と言うならば死んでしまった母が一番可哀想だと思ったし、祖父が何を思っているのかわからないからどう反応すればいいのかわからない。
 そして、喪服に身を包みながらも、今にも笑い出しそうな、低く抑えたざわめきからは悪意しか感じなかった。
 だから、母が死んで哀しいのに泣くこともできず、周囲の不躾な反応に悔しくても泣けず、怒ることもできず、フェリアは苦しくてたまらなかった。
 見られることはフェリアにとっては日常だった。
 青銀の髪や顔立ち、生い立ち、全てが彼女が望むと望まざるとに関わらず、人々の耳目を集めるからだ。
 けれど、今日ばかりはその視線に縊り殺されそうで、大声で泣きたくて、フェリアはただひたすら誰もいないところを求めて走り続けるのだった。

2005.09.15

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