047. スイッチ

 暗い洞窟の中、あるのは手元のカンテラの明かりのみ。
 緊張のため呼吸が荒くなり、汗が噴き出てくる。
 震える指先。
「こんなじゃあ、やってらんねぇな」
 苦笑と共に、深呼吸をし、汗をぬぐう。
 彼はトレジャーハンター。
 墓荒らしでも、宝泥棒でもなく、あくまでトレジャーハンターと名乗っていた。
 目の前にあるのは、スイッチ。
「そうさっ、スイッチは押すためにあるっ!」
 自分を鼓舞するかのように、小声で、しかしながら力強くつぶやく。
 何度も死にかけたこともあり、一度はトレジャーハンターから足を洗おうと思った。
 しかし、ある街で彼の冒険談を話していたときのことだ。
「スイッチってなぁ、押したくなるようにおいてあるもんだ。だがな、そこで押すのは素人よ。たいていは罠だな。オレは下手に押してこなかったからこそ、生きてられるってもんよ」
 酔っぱらい達に囲まれながら、彼の冒険譚を話し、ささやかではあるものの戦利品を見せびらかすのは楽しかった。
 だが、
「でも、中にはお宝がある部屋とかのスイッチもあったんじゃないの?」
 耳に心地よい声だった。
 まだ幼い少女だったが、青銀の髪が煌めく水面のように美しかった。
「おじちゃんが押さなかったスイッチの中には、すんごいお宝があったかもしれないってことじゃないの?」
 生きてはいるが、大きな宝は手にしていない。
 それは、あまりに用心深かったせいではないか。
 少女の無邪気な問いかけに、彼は愕然とした。
 そして、また、新たな旅に出たのだ。
「ふぅ……いくぜっ」
 ボタンが吸い込まれていく手応え。
 奥で何かが動き始める音、そして縦横無尽に走る亀裂!
「ぎょえぇぇぇっっ」
 脱兎のごとく逃げだしながらも、彼は思う。
「そこにスイッチがあるから押す、お宝を目指してっ。例え99のスカがあろうとも、1つの財宝求めて押すっ! それこそがトレジャーハンターっ!」

2005.09.19

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