043. フレーム

「あたしの勝ちぃっ!」
 下町の空き地に、フェリアの勝利宣言が高らかに響く。
「くっそぉ」
 地べたに転がる3人に少年たちは悔しそうに呻く。
「これにこりたら、あたしやルビーにイタズラするのやめなさいよねっ」
 偉そうに言い放つフェリアの肩の上で、フェリックは軽く溜息を吐く。
 ここら辺の剣術道場を片っ端から破りまくった彼女に、ただの悪ガキが勝てるはずがないのだ。
「女のクセに生意気だぞっ」
 名前は知らないが、リーダー格の少年が大声で喚いた。
「”女のクセに”ってことは、男は強いの?」
 フェリアは不思議そうに首を傾げる。
「そーだよっ! だから、女は大人しく家にいりゃいいって父ちゃんも言ってたぞっ! なっ?」
 彼は残りの2人に同意を求め、彼らもまた大きく頷く。
「んー、じゃあ、女のあたしより弱いあんたたちは男じゃないってこと?」
 何気なく言われた科白に、音を立てて空気が凍り付いた。
「あんたたちの言い分だと女より強いのが男ってことでしょ? そうなると、あたしに負けたんだから、男じゃないってことだよね?」
 当然のことながら彼女は喧嘩を売っているわけではなく、単純に不思議に思っているだけなのだろう。
 それがわかるから、フェリックは必死に笑いをかみ殺す。
 リーダーは空しく口を開閉させたあと、
「ちくしょーっ! 次こそ負かすっ! 泣かしてやるっ! 憶えてろよっ!」
 フェリアに指を突きつけ、とても自慢にならないことを威勢良く言い放った。
 だが、
「うん、わかった」
「……いや……その……」
 素直に頷かれ、リーダーは青くなった。
「ちゃんと憶えておけばいいんでしょ?」
「う……ばっ、ばかやろーっっ」
「あ、待ってくれよぉっ」
 脱兎のごとく逃げ去るリーダーと、手下たち。
 フェリックはたまらず吹き出した。
「なぁーに?」
「いや、リアってばサイコーだなって思って」
「それって、ホメてるの?」
「もっちろん」
 不審そうなフェリアだが、フェリックはあくまで本気だ。
 彼女は決して世間の枠組みに自分を押し込めたりはしない。
 それが、今まで飛べないことを卑屈に思い目立たぬよう、ひっそりと暮らしていこうちしていた彼には小気味よい。
 薄羽族は飛べるものである、という枠組みに囚われていた彼には。
 そして、その枠組みから弾き出された自分は孤独だと思っていた。
 同様に世間の言う親子という枠組みから外れている彼女も同じだと思っていたのだ。
 だが、フェリアはそんな枠組みを超越していた。
 気にしていないわけでは決してないのだろうが、彼女は笑ってすり抜けていく。
 それが、羨ましくもあり、嬉しくもあるフェリックだった。

2005.8.26

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