039. 証明

「ねぇねぇ、ジョゼフィは何で騎士になろうとしてるの?」
 何故か暇を見ては下町の娼館に立ち寄るランスについて来たジョゼフィに、リアは不思議そうに小首を傾げる。
 リアは下町にそぐわない王侯貴族の血を引く艶やかな青銀の髪、大きな瞳、肌はぬけるように白い美しい少女だ。
 ランスのお目当ては彼女だとは思うのだが、何故こうまで気にするのかがわからない。
「ねぇ、何で?」
「何で知りたいんだよ?」
 ぶっきらぼうな口調になるのは、リアが苦手だからだ。
 年下なのに口が達者で、剣の技量もランスが認めるほどだ。
 関係ないと思いながらも、劣等感を感じずにはいられないのだ。
「聞いてみたかっただけ」
 だが、そんな彼の心情には気づきもせず、リアはあっけらかんと応じる。
 曇りのないまっすぐな目。
 本当に訊きたかっただけなのだろうと思うが、この目で見つめられるといい加減な返答は許されないようにも感じられて居心地が悪い。
 しかも、元々はっきりした志望理由などなく、今に至るも動機は明確ではないのだからなおさらだ。
 仕方なく、
「恰好よさそうだったからだよ」
 と小声で言うと、
「騎士って恰好いいの?」
 リアはまた不思議そうに首を傾げる。
「恰好いいだろっ? ランス様を見てみろよっ!」
 ジョゼフィにとって、ランスは理想だ。
 騎士の正装をして立っているだけで、うっとり見惚れてしまうほどだ。
「ランスさん、騎士だから恰好いいの? んじゃ、騎士じゃないランスさんは恰好悪くて、見習いのジョゼフィも恰好悪いの?」
「へ?」
 嫌味でも揚げ足取りのつもりでもないだろうが、ジョゼフィは虚を突かれ言葉に詰まる。
 彼にとって騎士とはランスのことであり、それ以外のランスなど考えたこともないからだ。
「騎士だったら、みんな恰好いいの?」
「う゛」
「変なのー。あたしはお仕事してるランスさんは知らないけど、ここに来てるランスさんは恰好いいと思うし、ぶらぶらしてばっかのおっちゃんだって、すんごぉーくたまにだけど恰好いいかもって思うことあるよ?」
「すんごぉーくたまにだけど、とかもは余計だっ」
「あだっ」
「何すんのっ?」
 2人の会話を聞いていたらしいおっちゃんことサリウスが窓から投げつけたクルミは、リアが避けたためジョゼフィの額を直撃した。
 リアは彼の方を見向きもせずに、サリウスの方へと駆けだして行く。
「……ほんっと恰好悪ぃ」
 痛む額をさすりながらクルミを拾う。
 リアと喋り、行動していると、自分の浅はかさや間抜けさを証明していくようで、情けなくなる。
 ジョゼフィは唇を噛みしめ、俯いた。

2005.08.21

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