035. 意味

 フェリックは鏡の前に立ち、自分の翅を見ているようだった。
 彼の背中にある翅は薄く透き通っており、触れると破けてしまいそうな気がして、フェリアは気が気ではない。
 フェリアは見ていたことを気付かれないよう、静かに何歩か下がり、わざと鼻歌を歌いながら部屋に入る。
 彼の意思で広がったり、動いたりするのに、何故か飛ぶことだけは出来ない翅。
 フェリックは飛ぶことを願い、飛べないことに悩んでいるのだ。
 彼女も色々考えてはいるものの、何とかの考えで言い知恵は浮かんだことがない。
 何しろ彼女には翅がないのだから、考えたところで無理なのかも知れないと最近は思っている。
「フェイ、そろそろ婆様のところに行こうよ」
 それで別の方策をと考え、魔法を習ってみることにしたものの、蓋を開けてみれば浮遊術は難しく、肝心のフェリックにも魔法に対するやる気が見えない。
「えー」
 今もあからさまに「面倒くさい」という声を上げる。
「フェイだって、ちょっとはやってみようって思ったんでしょっ? 続けることに意味があんのっ! だいたい2人とも魔力はあるって言われたんだから、習って損はないでしょっ!」
「う゛ぇっ」
 渋い表情をする彼をひっつかみ、フェリアは部屋を出る。
 もしサリウスやハリエットの言う通り、全てに意味があるのなら、フェリックが飛べないことにも意味があるのかも知れない。
 ならば、その意味が見いだせれば彼は飛べるようになるかもしれないのだ。
 今は魔法と、そのことに望みをかけるフェリアだった。

2005.07.26

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