033. 拒絶
「なぁ、リア」
ランスは美味しそうにアイスクリームを舐めるフェリアを見つめる。
最近ようやく彼を警戒する気配が消え、こうして2人で出かけることも増えてきた。
「なぁーに?」
「……その、ここら辺に来ることを、おうちの人は心配しないのか?」
彼の問いかけに、フェリアは唇を尖らせ、
「してる」
短く答える。
「でも、ここに来ないとルビーやおっちゃんに逢えないもん」
「そうか。そうだな」
そして、彼もまたフェリアが下町をうろついていなければ、逢うことはなかったのだ。
彼が剣と忠誠を捧げるのは国王ジェラルドであり、それは今も変わらない。
だが、フェリアを知れば知るほど、一緒にいたくなるのだ。
彼女が正式にジェラルドの娘として認められれば、彼も側近くに仕えることができる。
ときどきそのことを真剣に考える自分に気付いて、ランスは苦笑いすることがある。
「ところで、ランスさん、おしごといーの?」
「ん? うん」
まさかフェリアの様子を見に来ることが仕事とも言えず、ランスは曖昧に微笑む。
「ふーん」
彼女の澄んだ瞳に見入られると、心の奥底まで見通されそうで、ランスは視線をそらせてしまいたくなる。
何とか笑みを浮かべ見返しているうちに、彼女は興味を失ったのか、またアイスクリームを舐め始める。
ジェラルドは、父として名乗り出るつもりはないと言う。
きっとあの子は私を拒絶するだろうから。
そう言って、哀しそうに笑った。
それ故彼も不必要に口を出せず、ただもどかしさを募らせるだけだ。
何しろ彼女は野生動物のようなものだ。
誇り高く、滅多に他者に心を許さない。
迂闊に近づきすぎれば、ようやく小さくなったこの距離もあっという間に遠ざかってしまうだろう。
それは避けたかった。
そして、ランスは自分の本心に気付く。
彼も同じように彼女に拒絶されたくないと願い、そのことを恐れていることに。
だから、彼女が王女として認められればいいと思いながらも、あえてジェラルドに進言したり、自分から口を挟まないのだとわかりランスは一人苦笑した。
2005.07.26
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