034. タイル
「何見てんのさ?」
珍しく庭で物思いにふけっている風情のフェリアを見つけ、フェリックは首を傾げ問いかけた。
彼女の視線の先には整然と石畳が敷かれているだけで、何も面白いものはない。
「タイル」
だが、フェリアは短く、見たまんまのことを言う。
見上げる横顔は白く、滑らかな肌をしており、睫が陰を落としている程度でホクロ一つない。
フェリックがついつい見入っていると、
「ねぇ、フェイ」
唐突に呼びかけられ、
「なっ、何っ?」
別段疚しいことを考えていたわけでもないのに、声がうわずってしまう。
「……何慌ててんの?」
呆れたように笑いながらも、フェリアは手を差し伸べてくれた。
掌に飛び乗り、親指に掴まるとゆっくりとテーブルの上まで上げてくれる。
「ありがと。で? 何言いかけてたのさ?」
「うん? ……タイルってさ、色も形も全部決まってて、はめ込まれる場所も決まってるんだよね。そういう風に生きられたら、話は簡単なのかなって思ってたの」
フェリアは苦笑めいたものを浮かべ、吐息とともに言った。
「リア?」
「あたしはあたしでいたいだけなのに……なんで、それが苦しくなるのかな」
珍しいほど弱気な理由は、彼女の祖父であるサンモーガン卿に、成人したら白へ上がれと申し渡されたからだろう。
年が近い王女イレイザの話し相手となるように、と。
「まだ2年も先でしょ? きっと断れるよ」
「 そうだね」
フェリアは柔らかな笑みを浮かべた。
その笑みにフェリックは胸を突かれた。
哀しくて、自分が情けなくて、笑い返そうとして失敗する。
今のは彼のための笑みだった。
彼が口にしたのは気休めで、力にはなれない。要するに「自分で何とかしろ」と突き放したのと同じだ。
「なんて表情してるの? だぁーいじょうぶっ。泣き言聞いてくれてありがとねっ」
そんな彼の額を優しくつつき、フェリアは大輪の笑みを花開かせると、
「ま、よく考えたら、タイルって言ったって色んなのがあるわけよ。絵ついたのとかもあるし、色んな色あるし。だから、大丈夫っ」
いつも通り明るい口調で言いつのる。
「先のことより今日のおやつ。昨日くすねといたファッジがあるんだ。お茶にしよっ」
「また、そんなことしてぇ」
また丸め込まれたのがわかりつつも、フェリックは差し出された手に飛び乗る。
例え、フェリアがどんな道を選ぼうと、彼がついて行くことに変わりはないと、親指に掴まる手に力を込めた。
2005.07.26
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