030. 爪

「ごめんなさいね、フェリア。お父様が悪いのではないのよ」
 母リディスの淋しさと哀しさのない交ぜになった表情を思い浮かべ、フェリアは拳を握りしめる。
 庭で開かれるお茶会という名のつるし上げ。
 父親が誰かわからない子を産んだ、良家の子女にあるまじき、家名に泥を塗る行為を行ったリディスは、いつもフェリアにもわかるほどあからさまだったり、母の強張った表情から察するような陰湿な当てこすりや、父親が誰なのか、どんな人物なのかを探ろうとする婦人たちに耐えている。
 断ればいいと思うし、何度も言ったのだが、母は「それも難しいのよ」と力無く笑うだけだった。
 大人たちのしがらみは彼女にはわからないが、それでなくとも辛い思いをしている母に彼女の不始末まで負わせるわけにはいかないのだ。
 一度我慢ならずに、声を荒げかけたときの反応で身にしみていた。
 彼女が口さがない者たちに反抗することは、すなわち母を攻撃する絶好のネタを与えることになる。
 フェリアが母を護ろうと発する言葉の爪は、そのまま母を傷つけることになるという矛盾が悔しかった。
 早く終わるよう、繰り返し願いながら、フェリアはひたすら拳を握りしめていた。

2005.07.20

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