029. まぶしい

 バラクト王ジェラルドは墓に花を供え、溜息を洩らした。
「君ともっと早く出会っていれば……」
 結婚に夢などなかった。
 彼は一国の王子で、結婚は国同士の駆け引きと子孫を残すためのものだからだ。
 だから、父王が隣国の姫を娶れと言ったときにも、さほどの感慨を覚えなかった。
 美しい姫だとは聞いていたので、それは良かったとは思っていたが。
 だから、
「お初にお目にかかります」
 初めてリディス=エラヴァス=サンモーガンと出逢ったときの感動を言い表す言葉が見いだせなかった。
 今まで心が凍っていたのが、突如として熱い血が流れ、初めて動き出したかのように思えた。
 彼にとってリディスは素晴らしく、まさにまぶしい存在だった。
 彼女の全てが愛おしくて、彼女といることが幸せで、その光輝の中に己も共にあることがこの上もなく嬉しかった。
 リディスが死してなお、思い出の中の彼女はまぶしく、そして忘れ形見である娘のフェリアも輝かしく彼は誇らしくてたまらなかった。
 自分の幸せに舞い上がり、酔い続けるジェラルドには、まぶしい光には影がつきものであることに気付いていなかった。

2005.07.18

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