95. 落涙



 母が死んだときの話ですが。
 うちの母は自宅で死を迎えるということでしたので、死の瞬間は私と父と猫が一緒に迎えたのですが、死亡診断書を書いてもらう必要があるので、死んだ後訪問看護のところに電話をするわけですね。
 そこで、最期のときを迎えるために来てくださった看護師さんが、「ご苦労様でした」と伝えるとき、ひとしずく涙をこぼしたのです。
 毎日死と接していると言っても過言ではない職業なので、大変だと思うのですけれど。
 けれど、そういう死を悼む気持ちを持っている、この看護師さんがとても素敵に見えました。
 毎日の生活の中で、心が麻痺していくこと。
 心を麻痺させねばならぬことなどがあるとは思うのですが、大事な感覚は失ってはいけないんだな、と思いました。
 彼女の涙で、私の心はとても救われたように思うのです。

2014年08月21日
inserted by FC2 system