076. 救えなかった



 何かを「救う」なんて、大それたことは出来ない人間だと思います。
 でも、力及ばずとも、ちょっとした助けにはなれたんじゃないかな、と後悔していることはいくつか。
 帰宅途中、お客様が軽自動車の中の誰かと喋ってたのです。
 それで、「彼氏か? 知り合いか?」と思って、そのままバス停に向かったのですが、バス停で会ったら、「さっき変質者に会った」と。
 どうやら車の中の奴は、下半身丸出しだったようで。
 あのとき、挨拶くらいしていれば、嫌な思いをする(怖い思いをする)前に、一緒にいられたんだろうな、と思います。
 変に気を利かせなければ良かった、と、今でも思います。


 飲み屋の店先で、以前の職場で会ったお客様と再会。
 お互いに、「わー、びっくりっ!」と、軽く喋ったのですが、私は同僚を待たせていましたし、彼も彼女と一緒だったので、「お元気で〜!」と別れました。
 その後、事故なのか故意なのか。
 薬の過剰摂取で亡くなったと知り、あのとき、もっと話していれば良かった、と。
 年上の男性でしたので、あんまり深くお話しすることもなかったのですが、後悔しました。


 以前の職場で会ったお客様。
 もう彼女と会うこともなかったのですが、自ら命を断たれたと知り、一緒にいたからと言って何が出来たわけでもありません。
 それでも、まだあの職場で会うことがあったならば、何か話を聞けただろうに……。
 そう思ったことを忘れません。


 数年前、何らかのトラブルを抱えて、話の途中で去ってしまわれたお客様。
 こちらの手落ちでも何でもなかったのですが、去って行く背中を見たときに追いかけよう、と思ったのに、「追わなくていい」という部長の指示で足を止めてしまいました。
 先日お会いしたときは、お元気でしたが……。
 追ったところで結果は変わらなかったかもしれませんが、足を止めた自分に、「なぜ追わなかったんだっ!」という思いが残ります。

 そういったことの積み重ねです。
 でも、誰かの力になりたい、なれる機会があるならば逸したくない。
 そう感じます。


2015年10月13日
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