088. 冬に
雪を踏む足音と、フェリアのでたらめな歌が森の中に響く。
歌はでたらめなのに、声が綺麗なだけで、雪の妖精の旋律のようにも聞こえて、フェリックには若干腹立たしい。
夏に、鳥の背から落ち、気を失っていたところを、不覚にも彼女に見つかり、「フェリック(妖精もどき)」などという名で縛られてしまってから数ヶ月。
「必ず逃げ出してやる」と心に誓ったものの、どうにもならず、現在に至る。
「うー、寒っ」
フェリアがかぶったフードとマフラーで、多少は寒さはしのげるが、それでも外気は流れ込んでくる。
彼女が頼んでくれたお陰で、彼のサイズのセーターやマフラー、帽子を、ヴァイスの母が編んでくれたものの、それでも寒いのだ。
台所からくすねた食料を詰めたバスケットを振りふり歩くフェリアがなぜこんなに元気なのか疑問に思う。
「……あ……」
不意に歌声が止み、足が止まる。
「どうしたのさ? 早く行こうよ」
掘っ立て小屋とはいえ、そこに住むフェリアの剣の師匠であるサリウス=ヴァン=デジレが、手入れしている分、そこの方が暖かい。
彼は不満を表明するが、彼女は気にせずに、脇道に逸れる。
「リア?」
彼女が下を向いたので、彼にもようやく、何が彼女の足を止めたのかがわかった。
小鳥の死骸だ。
寿命なのか、他の動物にやられたのか、寒さにやられたのか。
フェリアはしばし思案した後、ポケットからハンカチを出して、小鳥の身体を丁寧にくるむと、傍にあった棒きれで地面を掘り始める。
「何してんの?」
「んー? お墓。このままにしておけば、狐とかが食べるのかもしんないけど、寒い中でそのまんまって、なんか悲しいかなって」
しばし無言で、墓を作ることに集中する。
「……土の中なら、少しはあったかいよね」
土まんじゅうを作ったあと、フェリアは神妙に祈りを捧げる。
死んでるのに、温かいのも冷たいのも関係ないだろう。
そう思うフェリックだったが、彼女と出会っていなければ、小鳥の姿は自分の姿だったかもしれないのだ。
彼等が住んでいた土地は、温かく、「冬」と言っても、皆で鳥の羽や獣の毛を使って防寒すれば決して死ぬような寒さではなかったのだ。
飛べないから。
その地に、自分の居場所がないから。
そんな理由で飛び出してきた自分の甘さを、この冬に、フェリックは初めて考えさせられたのだった。
2015年11月30日
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