078. 凍った



「リア?」
 フェリックは、ベッドに横たわるフェリアの顔を見つめる。
「ん?」
 彼女の頬は熱のため紅く、息も荒い。
 一緒に暮らすようになってから、こんな風に病気で寝込む姿など見たことがなかった。
「……うつったら……大変、だから……あんまし……ちかよらないほーが……いいよ」
 喋るのも辛そうな喘鳴の合間に、彼への心配を見せる。
 もうすぐ冬という冷たい雨に打たれた彼女は、その晩から高い熱を出し、その熱は一向に下がらなかった。
「ん……でも、ぼくは人とは違うから」
「たぶん……でひょ……」
 笑いかけて、激しく咳き込む。
「ごめんね、リア」
 小人であるフェリックに出来ることは少ない。
「ひゅ……ちょっと……休む……ね」
「ん」
 母の死から、時間の有限さを感じ取っていたフェリアが、自分から休むということは少ない。
 それだけ、今が辛いのだろう。
 フェリックは、彼女の邪魔をしないように、そっと傍を離れた。
「……サリウスの馬鹿」
 サリウスが、フェリアの正体を知っていたことを知り、彼女はしばらく彼から身を遠ざけた。
 決して、彼を騙そうとしたわけでもないし、彼女の傍でその境遇を見てきたフェリックには、黙っていた理由も何となく察せられる。
 それを何とか克服して、またサリウスの元へと行ったのに。
 そのときの様子を思い返すと、フェリックは思わず拳を握りしめる。
 フェリアは、傍若無人に見えるが、決して他人を思いやれないわけではない。
 自分をさらけ出してもいい相手か、自分が大事にしている人や物に害を与える者に対してのみ遠慮をしない。
 そして、基本的にフェリアは大人を信用していない。
 サリウスは、無条件で信頼している相手だったのだ。
 まだ、身分を隠していた自分を受け容れてもらえるかどうか不安を残していたのだろう。
 フェリアがおずおずと手を伸ばしたとき、サリウスは彼女から目をそらしたのだ。
 サリウスの拒絶に似た行動はほんの一瞬、フェリックも気をつけていなければ気づけないほどの刹那だったが、フェリアが感じ取らないはずがない。
 彼女は、弱々しいながらも微笑み、そして雨の中に出ていってしまったのだ。
 笑みを浮かべる前の、凍った表情を思い出すと、フェリックは胸が痛くなるのだった。


 2015年11月02日

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