076. 擦れて生じる
「うっとうしいっ!」
溜息を吐いた途端、隣にいたマドレーヌが手にした枕を投げつけてくる。
「……はぁ……」
それでも、サリウスはただただ溜息を吐き、ごろごろとベッドの上で転がるのみだ。
「 お嬢ちゃんがまた来るようになったってのに、何をふて腐れてるわけ?」
呆れかえったように言われ、それが図星だっただけに口を閉ざすと、
「自分の部屋に帰んな」
マドレーヌは彼の背を蹴り飛ばした。
「冷てぇなぁ」
「お嬢ちゃんには自分で解決させたでしょ?」
「う……わぁーったよ」
先日、彼の子どもじみた振る舞いでフェリアを傷つけた。
だが、いつかは乗り越えなければならないものだったので、彼は一度気持ちを伝えただけで、後は彼女任せにしたのだった。
それを言われると、ここでただただ甘えるわけにもいかず、サリウスは自室へと戻る。
フェリアが、彼女の本当の姿、フェリア=トレスタ=サンモーガンであるということを認め、また彼の元へ来てくれたのは素直に嬉しい。
なのに、それを素直に喜べないのは、彼女が戻ってきた理由に、「婆さま」が介在しているからだ。
彼は剣の師匠、「婆さま」ことキャヴェリン=ハリエットは魔法の師匠。
彼の方が付き合いが長いのに、と、とても人には言えない部分で……要するにすねているのだ。
彼女は彼の弟子であって、彼のものではない。
それはわかっている。
けれど、彼女をただ一人の、唯一の弟子と思うが故に、思い入れが深すぎるのだ。
「ちくそー」
この世に二人だけではなく、多くの人間がいる限り、どうしても擦れて生じる人間模様がある。
この年になっても、まだそこで悩むのかと思うと、サリウスは自己嫌悪に陥るのだった。
2015年10月27日
|
|